東京地方裁判所 平成10年(レ)282号 判決 1999年1月28日
控訴人
荻野輝雄
被控訴人
砂場泰生
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者双方の申立
一 控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
被控訴人の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決を求めた。
二 被控訴人
主文と同旨の判決を求めた。
第二事案の概要
一 本件は、被控訴人が控訴人に対し、後記交通事故により生じた損害賠償を訴求した事案であり、原審は、事故についての過失割合を控訴人対被控訴人・七五対二五とする過失相殺をして、請求の一部を認容した。
なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。
二 争いのない事実等
次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
1 日時 平成九年七月二九日午後二時ころ
2 場所 東京都渋谷区本町三丁目一一番先路上(以下「本件事故現場」という。)
3 当事者の車両
(一) 控訴人車 普通乗用自動車(品川三三あ八三〇七)(運転者・控訴人)
(二) 被控訴人車 大型自動二輸車(品川ひ九七一四)(運転者及び所有者・被控訴人)
4 事故態様等
本件事故現場は、南北に走る山手通(車道幅員約一四・六メートル、両側に幅員各約三・五メートル、三・七メートルの歩道が設置されている。)の東中野方面(北方)へ向かう道路(以下「本件道路」という。)が、西から来る幅員約九・〇メートルの道路(以下「西側道路」という。)と交差する丁字路交差点(以下「本件交差点」という。)付近である。本件交差点には信号機の設置はなく、山手通は優先道路で、西側道路の本件交差点手前には一時停止の標識が設置されていた。本件道路の制限速度は時速五〇キロメートルで、西側道路の制限速度は時速三〇キロメートルである。本件交差点を東中野方向(北方)に少し進むと信号機による交通整理の行われている交差点がある。本件道路は、本件交差点手前で次の交差点に向けて右折車線が始まっているため、本件交差点を過ぎたところで三車線となっており、右折車線開始部分手前にはゼブラゾーン(導流帯)が設けられている。本件道路の幅員は、約八・六メートル(左側車線が約三・三メートル、中央車線が約二・八メートル、右折車線が約二・五メートル)である。
控訴人は、西側道路を進行してきて本件交差点手前で一時停止した後、本件道路へ進入するに際し、本件道路の左側車線には通行車両がなく、中央車線を走行していた大型トラックが一時停止をして控訴人のために道を譲ってくれたことから、右折車線に進入するに際して、停車車両の右側から車両が来るかどうかの確認をせずに、右車両の前をゆっくりした速度で横切り本件道路一番右の右折車線に進入しようとした。
一方、被控訴人は、大型トラックの後方を時速約三、四十キロメートルで走行し、大型トラックが本件交差点で停止した後は、右折車線に出るため若干の減速はしたものの、ほぼ同じ速度で走行した。被控訴人は、大型トラックの右側にあるゼブラゾーン付近を走行し、右折車線に出た。
控訴人車と被控訴人車は、右折車線のほぼ中央付近で、控訴人車の右前部角付近と被控訴人車の前方左側とが衝突した。本件道路に被控訴人車のスリップ痕はない。
5 被控訴人車の本件事故後の修理見積費用は金四二万六七六七円であったが、被控訴人は、金二万八五五五円をかけて被控訴人車を一部修理した後、平成九年一二月の別の交通事故による被控訴人車全損の損害賠償として金五〇万円を受領している。被控訴人は、同年四月、被控訴人車を金八七万円で購入したものである。
(当事者間に争いのない事実、証拠〔甲第一ないし第四号証、乙第一号証〕及び弁論の全趣旨により認める。)
三 争点
1 本件事故における控訴人の過失の有無、双方の過失割合
(一) 控訴人の主張
控訴人車は、一時停止をした後、直進車が停止して道を譲ってくれたのを確認してゆっくりと本件交差点を左折して右折車線に進入したもので、控訴人に何ら過失はなく、本件事故は、被控訴人車がゼブラゾーンを相当の速度で走行してきたために起こったものである。
(二) 被控訴人の主張
控訴人車が、本件交差点を左折する際、方向指示器による合図を出さず、一時停止をして右側の安全を確認しないまま一気に進入したため、被控訴人車が進路を妨害されて衝突したもので、控訴人にすべて過失がある。
2 被控訴人の損害
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 控訴人は、被控訴人のゼブラゾーン走行及び速度の出しすぎが本件事故の原因である旨主張する。
そこで検討すると、ゼブラゾーンは、車両の安全かつ円滑な走行を誘導するために設置されるもので、車両の通行が罰則をもって禁止されてはいない。また、本件道路は、優先道路であるから、本件交差点において被控訴人車が特に減速すべき義務もない。しかしながら、ゼブラゾーンは、通行車両を誘導し、交通の流れを合理的に円滑化するためのものであるから、ゼブラゾーンにみだりに進入すべきではないと一般的に考えられていることからすると、ゼブラゾーンをあえて通行した車両の運転手には、交通秩序を乱すものとして、ある程度非難すべきものがある。そうすると、前の車両が停車しているのにその横のゼブラゾーン付近を走行して右折車線に進入した被控訴人には、ある程度非難すべき点があるといえる。また、被控訴人が優先道路を進行中で、西側道路には一時停止の標識が設置された本件交差点を通過するとはいえ、本件においては、本件事故前、中央車線に大型トラックが停止していたのであるから、左右折の進入車両の有無等に注意を払い、進入車両を認識した場合には減速その他の措置を講ずるべきであったのに、これを怠った点に被控訴人にも過失があるといえる。
一方、控訴人は、本件道路に左折進入するに際し、右側から来る車両が停止して道を譲ってくれたとはいえ、右車両の両側から二輪車等が直進してくる可能性があることは容易に考え得るのに、これらの直進車両の有無を確認せずに漫然と右折車線に進入した点に明らかに過失が認められる。
2 以上からすると、本件事故は控訴人車と被控訴人車双方の過失により生じたものと認められ、前示双方の過失を対比すると、その過失割合を控訴人七割五分・被控訴人二割五分の割合とするのが相当である。
二 争点2について
前記認定のとおり、被控訴人が本件事故の後の事故による被控訴人車の全損の損害賠償として金五〇万円を受領していることに照らすと、その当時の被控訴人車の価格は金五〇万円程度であったものと推認することができる。そして、被控訴人が被控訴人車を購入してから本件事故まで約三か月が経過していること、被控訴人は本件事故による修理代として金二万八五五五円を支出していること等を考慮しても、本件事故により控訴人車に生じた損害は、被控訴人車の購入価格八七万円から右の五〇万円を差し引いた金三七万円とするのが相当であり、前示過失割合によれば、控訴人の負担すべき損害額は、金二七万七五〇〇円となる。
また、本件事案の内容、審理経過、認容額等の諸事情に鑑み、弁護士費用として金七万円を認めるのが相当である。
よって、被控訴人の本件事故による損害は合計金三四万七五〇〇円となる。
三 以上からすると、被控訴人の本訴請求は、金三四万七五〇〇円及び内金二七万七五〇〇円に対する本件事故である平成九年七月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がない。
第四結語
そうすると、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六七条一項、六一条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 園部秀穗 馬場純夫 田原美奈子)